Vol.006 制作の現場

継続に意味はあるのか

Vol.006 — 2026 年 10 月 16 日発行

主筆の池淵峻一です。前号から 1 週間、このニュースレターそのもののことを考えていました。この号では、週 1 回の配信が続いている理由を書きます。継続は本当に力なのか。AI に、人に、なにを「任せる」か、という話です。

近況報告

先週 10 月 9 日に Vol.005 を配信しました。週 1 回の配信が、4 週連続になりました。最近は、だいたい水曜にニュースレターのネタの候補を考えて出します。その中からこれはある程度の人様に読ませることができるものになりそうかと考えて、号のテーマを決めます。候補の材料の論文ダイジェストは、月曜に機械が生成します。金曜 15 時に定期配信するシステムは自作してあります。作った理由は単純に、買うとそこそこのコストがかかるのと、作ってみたかったからです。

観察

水曜の午後、AI にニュースレターのネタの候補を 4 つ出させました。選んだのはそのどれでもなく、「ニュースレターを書くことは、ずっとやりたいことだった。それができている。なぜなのか」というテーマです。

事実はこうです。第 1 号は 4 月 6 日、第 2 号は 9 月 18 日で、5 か月半の空白があります。当時の計画は週 1〜2 本でしたが、続きませんでした。9 月に隔週と決め直し、月末に週 1 本へ。ただし「出せない週は出さない」。

話は少し変わりますが、今回のニュースレターを AI に書かせてみました。いままでも何度か書かせてみたことはあります。

洞察

AI が書いた稿は、字数制限をクリアし、私が決めた品質の検査ゲートを通りました。検証できる基準は、どれも満たしていたのです。それでも、「やりたいことは、仕組みに乗せると続きます」と締めたその稿は、滑らかで、破綻がなく、骨がありませんでした。私はその稿をボツにしました。とりあえず AI に作らせてボツにしたことは、何度もあります。エッセーの場合は、ほぼ全てボツにしています。

ある方との対談で、AI の書くエッセーについて話したことがあります。「(LLM は)滑らかさに最適化されているので、一見論理が破綻していないように見えて、完全に論理が破綻しているエッセーを書く」「結局ほぼ手で書く」。録音の中で、自分がそう言っていました。

ここに、委任の境界があると思います。情報を集める、文字数を数える、メールを送る、公開を止める。検証できる手順は、機械に任せられます。実際、(結果的にボツにすることが多いですが)素材集めも配信も機械がやっています。一方で、書くこと、面白いと決めること、承認すること。これらは任せません。ゲートは字数と形式を検査できますが、文章としての骨の有無、とっかかり、ざらつきは検査できない。検証できる基準を満たした骨のない稿が、その証拠です。検証の基準を決めるのも、人です。検証できないものを機械に委任すると、滑らかな失敗が返ってきます。

続けることは意志の問題だと思っていた時期がありました。9 月の改定のとき、仕組みだと気がつきました。そして、続けることが目的になってはいけないと気がつきました。

ニュースレターの 5 か月半の空白の間も、書くのをやめたいと思ったことはありません。それでも続かなかった。気持ちは燃料にはなっても、仕組みにはならない。曜日を固定し、手順を機械に委任したら、4 週続きました。肝心な、書くことは自分でやっていますが。

継続に意味はあるのか。継続そのものに意味はないと、いまは思います。そして、この問題は決していまに始まった問題ではありません。人に何を任せるか、自分は何をするのか、どこに責任をもつのか。役割分担と、委任における責任の境界の問題です。

まとめ

機械が出した候補を見て、結局どれもボツにし、自分で書き、金曜の 15 時に機械が送る。委任できるのは、検証できる仕事だけです。検証できないもの、書くことと決めることは、自分がやります。この号の文章が機械のものでないことは、たぶんだれにも証明できないはずですが。

なぜ書くのか、それはたぶん私の欲望です。書きたいという思い、だれかに知って欲しいという思い、私にはそういう欲望があります。まだ機械はあなたの代わりに欲望してくれませんし、これからもないでしょう。あなたの欲望は、野望は、あなたのものです。

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この号のテーマを、一冊の本に書いています。『UPAP: AI を「使う」とはなにか?』。UPAP は Ultimate Principal-Agent Problem の略です。自分にできないことを他者に委ねるとき、成果を評価できないという構造的な問題があります。資格、監査、評判。人類が情報の非対称性に数百年かけて用意してきた仕組みは、AI の出力にはまだありません。ハルシネーションと正確な回答は、同じ口調で出てきます。委任と責任の境界を、12 章で掘り下げました: UPAP — AI を「使う」とはなにか?

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池淵峻一
Pigeonworks LLC
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